企業内で生成AIの利用が増えても、生産性が自動的に向上するとは限らない。総合人材サービスのパーソル総合研究所が紹介したデータによると、仕事でAIを利用する日本のフルタイム従業員の割合は、2025年の41.9%から2026年には54.3%へ上昇した。しかし、この普及が必ずしも残業時間の減少や組織の成果の改善を意味するわけではない。
ITmediaのインタビューで、パーソル総合研究所の主任研究員である小林裕司氏は、AIを使って価値を生み出すには、時にAIから離れる必要があると述べた。これはツールを拒否するという意味ではなく、モデルだけでは生み出せない能力の源泉、すなわち現実との接触、優先順位の判断、意味の構築、実際の人々や環境からの学習を保つことを意味する。
より速い時間が、常にボトルネックを解消するとは限らない
小林氏は、組織におけるAI利用の問題を3つの軸に整理している。第1は「間違った方向で時間を節約する問題」だ。情報収集やメールのやり取り、プレゼンテーション資料の作成といった作業が速くなっても、ボトルネックが別の場所に残る可能性がある。営業を例に挙げると、AIによって提案書の作成は速くなるかもしれないが、顧客の発見やニーズの理解、契約の成立のほうが、最終的な成果に大きな影響を与える可能性がある。
第2は「利用可能な余白が消える問題」だ。調査によると、AIによって節約された時間の60%が仕事に再投資され、そのうち70%以上が日常業務に充てられた。また、ツールを多く使う従業員ほど、ツールに関する社内研修などの追加業務を担うことになり、解放された時間が学習やイノベーションに振り向けられない場合もある。
第3は「差別化が消える問題」だ。採用応募書類の作成やマーケティング資料の準備が、似たようなツールを通じて誰にでも可能になると、文章力だけで得られていた優位性は低下する。小林氏は、企業がAIで実行できることは競合他社や顧客も実行できるため、作業の高速化だけでは、価格を付けられる優位性を生み出しにくくなると考えている。
決定的なスキルは、サイクル全体を管理すること
パーソル総合研究所の調査結果によると、AIを使う環境における高業績者は、AIを使わない環境における高業績者とは異なる。従来の環境では、役割の理解、行動の速さ、他者との関係管理が業績と結び付いていた。一方、AI環境では、ツールとの協働を、情報収集、意思決定、実行、検証、学習を繰り返すサイクルへと変えられる人々が目立った。
このサイクルは5つのスキルで構成される。上流の段階にあるのが「収集」と「判断」で、その後の段階に「検証」「分解」「蓄積」が続く。プロセスは、データの収集から始まる。これには、AIがアクセスすることの難しい、現実世界から得られる一次情報も含まれる。その後、利用者は優先順位と、ツールに任せるべきことを決め、他者とともに出力を検証し、修正したり不適切な前提を解体したりする。最後に、経験を組織内で共有し、集合知へと変えていく。
これらの手順が重要なのは、実務上のリスクが、必ずしも簡単に誤りを見つけられる「ハルシネーション」ではないからだ。小林氏によると、より大きなリスクは、全般的には正しく妥当に見えるものの、この顧客、このタイミング、この文脈には適していない回答が生成されることにある。したがって、利用者の価値は出力を受け入れることではなく、「一般的な回答」を状況に適した回答へと変換することにある。
多面的思考と、画面の外での好奇心
調査は、高業績者に見られる2つの思考特性も把握した。1つは「立体的思考」で、抽象度を高め、複数の角度から対象を結び付け、全体像を見ることを意味する。もう1つは「アニマルスピリッツ」で、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが経済活動における非合理的な人間の動機を表すために用いた表現である。小林氏はここで、興味深いと思ったことを試してみようとする好奇心や意欲を指す言葉として使っている。
多面的思考は、モデルが生み出す提案の奔流を整理するのに役立ち、好奇心は、慣れた作業だけにとどまらず、新しい利用法を試すよう促す。しかし、出典が紹介する調査では、「アニマルスピリッツ」がAIの利用期間の長さに伴って自動的に高まることは確認されなかった。むしろ小林氏は、ツールへの依存によって利用者の一部の能力が低下する「スキル獲得の逆効果」が生じる可能性を指摘している。
実際には何が変わるのか?
編集上の最も重要な結論は、AIの成功を、利用する従業員数や節約された分数だけで測るのは不十分かもしれないということだ。より有益な問いは、「時間と努力が、収益や意思決定の質、顧客の問題解決に実際に影響する地点へ移されたか」だ。また、研修プログラムはプロンプトの書き方だけに限定せず、証拠の収集、優先順位の設定、集団での検証、知識の記録も含めるべきである。
小林氏は、思考力と好奇心を育てるには、異なる人々や環境との交流、副業や非営利・ボランティア活動への参加、1つのテーマを掘り下げること、読書など、ツールの外での活動が必要だと提案している。これはすべての組織に有効だと証明された処方箋ではないが、ツールを使い続けるだけで得られるものの限界を反映している。調査は、2万人の従業員を対象とした予備調査に続き、3000人のフルタイム従業員を対象とした本調査に基づいている。追跡調査は2026年4月22日から5月7日まで、新たな調査は2026年4月23日から5月7日まで実施され、2025年10月の調査参加者と新規参加者が対象となった。